今回ご紹介するリクガメ飼育書は「リクガメ。幸せに暮らす飼い方・育て方 コツがわかる本」(メイツ出版)です。2014年出版と、リクガメ飼育書のなかでは比較的新しい部類に入りますね。AmazonのKindle電子書籍にも対応しています。
本書の特徴:基本的な飼育情報をカバー。リクガメ飼育が初めての人向け
全体の印象としては、本書はリクガメ飼育の初心者の方向けに書かれている本です。「リクガメとはどのような生き物なのか」「ペットショップで選ぶさいにはどのようなことに注意したらいいのか」「飼育にはどのような道具が必要なのか」などなど、基本的な事柄についてはしっかり押さえている飼育書です。
とくに良いなと感じた点は、すべてのページがフルカラーなのですね。リクガメの写真やイラストがふんだんに使われているので、パラパラと本を読んでいるだけでも楽しいです。
書かれている内容そのものは、他の書籍と似たり寄ったりで「飼育書」としての目新しさは特にありません。もっとも、電子書籍に対応しているリクガメ飼育書は、本書くらいしかありませんので、スマートフォンやキンドルで読みたいという方にはおすすめできると思います。
あまり良くなかった点
良いところだけでなく、悪かったところも正直に書いておきますね。
まず第一に「温度管理の項目(p.56~)で、温度の目安が書かれていない」というのが大きなマイナス点です。本書のなかではリクガメケージの温度管理の大切さを説き「サーモスタットを使って温度を自動的に管理しましょう」とまで書かれているにもかかわらず、具体的に昼間は何度ぐらいで夜間は何度ぐらいに設定したらいいのかといった肝心な部分が書かれていません。
もちろん、最適な温度というのはリクガメの種類によって変わります。しかしながら大体の目安気温でも書いておけば、飼育者にとっては親切だったのになぁと残念です。「温度が上がってきたらフィルムヒーターをオフにしましょう」「温度が下がり過ぎたら保温ライトをつけましょう」といったアドバイスがあるのに、その温度の上限と下限が書かれていないのは情報が不足していると言わざるを得ません。
第二点として「温浴方法についての解説が頼りない」という点が挙がります。そもそもリクガメを温浴させるべきかどうかについては「専門家の間でも意見が分かれるんですよ」と結論を濁し、一方では水分補給や排泄促進のメリットを強調し「週に1~2回くらいやった方が良いと話す飼育者もいます」といった形で《伝聞調》の説明をしています。(p.66~)
本書の執筆者は、リクガメ飼育の専門家であるはずなので、その「専門家の見解」を書いてほしいというのが本音です。うわさ話程度の温浴メリットを語られても困ります。
あと「温浴をさせることで(排泄物の)掃除の手間が省ける」と本書には書かれていますが、これはないです。掃除の手間よりも、温浴の手間の方がはるかに大きいです。このあたりのメリット解説も「そういう飼育者さんもいますよー」と伝聞調で責任回避をするのは、ちょっと私的にはいただけません。専門家の方に、文責をとってしっかりと意見を書いてほしいです。
第三点に、「エサについての情報が足りない」という点があります。本書では「エサはカルシウムとリンの比率に気をつけましょう。理想的なカルシウムとリンの比率は4~5:1ですよ」といった内容が書かれています。(p.72~)
ここまで書くのであれば、エサ紹介の項目にも「カルシウムとリンの比率」をしっかりと記載すべきです。そうでなくとも「食品成分表でカルシウムとリンの比率は調べられますよ」くらいのガイドはほしいところ。
その辺りがまったく書かれていないので、一般の人が読んでも(えっ……4~5:1が理想って言われても、どうやって調べたらいいのかわからないよ……)と困ってしまいます。
また、本書で「主食に向いている野菜」としてオススメされている「サラダ菜」ですが、カルシウム/リン比は1.14:1です。本書の勧める理想形からは程遠く、その意味では自己矛盾の感があります。
「モロヘイヤの種、種のサヤは毒性があるので避けて」とも書かれている(p.72)のですが、この解説も不親切です。どのように気をつけるべきなのか、がまったく表記されていません。
モロヘイヤの毒については、スーパーで販売されている「市販品」を買う限りには心配する必要はありません。家庭菜園などでモロヘイヤを栽培している場合に、注意が必要となるのです。なのでモロヘイヤの毒性が不安であれば「リクガメには市販品のモロヘイヤを与える」が正解となります。ただ「気をつけて!」と漫然と注意されるだけでは、読者が困ってしまいます。
全体的には良書です
以上、かなり厳しめに書評をしました。上記に書いた3点については、正直に申し上げて「情報が不足している」と言わざるを得ません。
ですが数多くある飼育書のなかでは、全体的な情報量も多いですしバランスのとれた内容となっています。リクガメ飼育の入門書としては普通に「良書」の部類であり、上記の批判点を除けば、初心者にとって役立つ内容となっています。
冒頭でも述べたとおり、フルカラーで写真が多く使われているというのが一番の評価ポイントです。飼育書は読んでいて楽しいものを選びたい。
本書はその意味では、読んでいて楽しいと感じられた素敵な本です。
飼育書選びのお役に立てましたら幸いです。
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